企業が従業員に提供する社宅は、住居支援としての役割を果たす重要な福利厚生の一つです。社宅の家賃は、企業の財務状況、従業員のライフスタイルの双方に大きく影響を与えます。
本記事では、社宅の家賃相場や管理方法、さらには社宅以外の住宅手当について詳しく解説します。社宅制度を効果的に運用するための参考にしてください。
目次
社宅の家賃設定と管理規定
社宅制度を導入する際には、事前の準備が重要です。ルールが明確でない場合トラブルの原因となるため、まずは「社宅管理規定」を作成して、会社ごとの社宅に関するルールを明確に定めることが求められます。
社宅管理規定とは、入居者の条件、手続きの方法、賃料の支払い、物件の条件といった社宅に関する規則を定めたものです。具体的には、以下のような内容が含まれます:
- 入居者の条件:単身者のみを入居対象とする、入社何年次までを対象とする、自宅が遠く通勤が困難な従業員を対象とするなど、入居基準を設定します。
- 賃料の支払い方法:月額賃料の何割を従業員が負担する、給与から控除する形をとるなど、明確な支払い方法を定めます。
- 物件の条件:借り上げ社宅の場合、社宅として適用される物件の条件や基準を示すことで、管理の一貫性を保ちます。
社宅の家賃設定において、明確な管理規定を作成することで、トラブルを防止し、入居手続きをスムーズに進めることが可能になります。また、従業員にとっても安心感を持って社宅を利用できるようになります。
社宅の家賃相場
社宅の家賃相場は地域や物件の種類によって異なるため、社宅運営においては適正な家賃設定が求められます。相場をみていきましょう。
一般的には、周辺の賃貸相場の20%から50%程度を目安に従業員の自己負担分として設定することが多いです。この相場設定により、従業員は比較的低価格で住居を確保できる一方、企業にとっても優秀な人材を確保できたり、従業員の流動性を高め地域間の人材バランスを整えたりできるなど、長期的なコストメリットが得られます。
企業が社宅を所有する場合、社宅家賃に関して決まった基準があるわけではないため、物件の維持管理費用や周辺の市場価格に基づいて、企業が独自で設定することになります。
借り上げ社宅の場合、相場は地域によって異なりますが、借り上げた物件の家賃がそのまま企業および従業員の負担となるため、事前に相場をリサーチし、適切な物件を選ぶことが重要です。
借り上げ社宅の利用においては、家賃だけでなく物件の条件にも注意を払う必要があります。特に契約内容や家賃の更新時期、物件の状態などが企業の財務状況に影響を与えるため、常に最新の情報を把握しておくことが求められます。
なお、後述しますが、企業側が賃料の大きな割合あるいは全額を負担する場合は、みなし給与として課税されてしまう可能性があるため注意が必要です。
社宅の家賃徴収を行うメリット
社宅の家賃徴収には、従業員と企業の双方にメリットがあります。
従業員側のメリット
企業が従業員から一定額以上の家賃(「賃貸料相当額」の50%以上)を徴収する場合、従業員にとっては給与として課税されず、税負担が軽減されるというメリットがあります。
「賃料相当額」とは、社宅の家賃の市場価値を基に算出された金額で、以下の1〜3を合計した金額から計算されます。
- (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント
- 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント
<具体例>
企業が負担する金額 | 従業員が家賃として支払う金額 | 課税対象額 |
100,000円 | 0円 | 100,000円(全額が課税対象) |
60,000円 | 40,000円(賃貸料相当額の50%未満) | 60,000円(差額が課税対象) |
40,000円 | 60,000円(賃貸料相当額の50%以上) | 0円(非課税) |
賃貸料相当額を100,000円とした場合の例をみてみましょう。
従業員に無償で貸与する場合、100,000円全額が給与として課税されることになります。従業員に家賃の負担はありませんが、税負担が発生することになります。
従業員から40,000円の家賃を受け取る場合、賃貸料相当額の50%未満となるため、賃貸料相当額100,000円と家賃40,000円の差額である60,000円が給与として課税されます。従業員は自己負担する家賃の支払いに加えて、差額分の税負担も発生することになります。
従業員から60,000円の家賃を受け取る場合、賃貸料相当額の50%以上となるため、賃貸料相当額100,000円と家賃60,000円の差額である40,000円は給与として課税されません。従業員は家賃の支払いのみで済み、税負担が軽減されます。
この仕組みを利用することで、従業員は実質的な税負担を軽減できます。
また、社宅の家賃が適正に設定されている場合、従業員は他の住居と比べて経済的なメリットを享受でき、生活の質が向上します。特に若手社員や単身者にとっては、経済的な負担が軽減されるため、職場環境への満足度が高まります。
企業側のメリット
企業にとっても、社宅の家賃徴収には多くの利点があります。
福利厚生費として計上し節税対策が可能
社宅の運営費用や企業が負担した家賃を福利厚生費として計上することで、税負担を軽減することができ、社宅運営による長期的なコスト管理が可能になります。
社会保険料負担の軽減
従業員から家賃を徴収する場合、給与から天引きする形をとれば、その分は社会保険料の計算に含まれないため、企業側が折半する社会保険料の負担も減少させることができます。
保有物件の資産価値向上
社宅を適切に運営し家賃収入を得ることで、企業が保有する不動産の価値を維持・向上させることができます。不動産市場の変動に応じて保有物件の評価を行い、適切な管理を行うことが必要になりますが、適切な管理により社宅の資産価値が認められれば、社宅を担保とした金融機関からの融資条件が優遇されやすくなるといったメリットも享受できます。
社宅の管理方法
社宅の管理には、自社で行う方法と外部に委託する方法があります。それぞれの特徴を理解することが重要です。
自社管理のメリット・デメリット
メリット
物件の管理や修繕を自社で行うため、直接的なコントロールにより迅速な対応が可能です。これにより、管理の効率化を図り、従業員の生活環境をより良く保つことができます。
また、従業員との距離が近いため、コミュニケーションをとることでニーズに応じたサポートを行いやすくなります。
デメリット
運営・維持管理のための人員やコストが必要であり、資源を分散させてしまうリスクがあります。特に大規模な社宅を運営する場合、経済的な負担も大きくなるでしょう。
また不動産管理に関する専門的な知識が求められるため、担当者のスキルが重要になります。他業務との兼任も容易でないため、新たに管理者の教育や研修が必要となるケースが多いでしょう。
外部委託のメリット・デメリット
メリット
不動産管理の専門業者に委託することで、効率的かつ専門的な管理が期待できます。これにより、企業はコストやリスクを軽減、自社のリソースを他の業務に集中させることができ、業務効率が向上します。
社宅の管理は専門性が求められる一方で、専門の部署や人材を配置できず、担当者の不満が高まったり人的ミスが発生してしまったりするケースは多いです。企業規模に関わらず、社宅管理の一部または全部を外部委託することは、人的リソースを最適に配置するために有効な手段となりえます。
デメリット
当然ながら管理委託費用が発生するため、運営コストが増加する可能性があります。このため、外部委託の効果を継続的に評価していく必要があります。
また、業者との調整やコミュニケーションに時間がかかり、問題解決が遅れるリスクがあります。サービスの範囲や委託先の担当者との相性を見極めてから業者を選定することが重要になるでしょう。
社宅以外の住宅に関する手当
社宅だけでなく、企業は様々な住宅手当を提供することができます。これにより、従業員の多様なニーズに応えることができ、福利厚生の充実が図れます。代表的な選択肢として以下のようなものが挙げられます。
- 社有社宅(社宅・社員寮)
- 借り上げ社宅
- 家賃補助
- 住宅ローン補助
- 引越し手当
それぞれの制度を導入する際に考慮すべきポイントは、以下で詳しく解説しています。合わせてご覧ください。
関連記事:住宅手当とは?住宅に関する福利厚生の要素と最新動向を徹底解説!
まとめ
社宅の家賃相場や管理方法を理解し、従業員にとって魅力的な制度を整えることで、優秀な人材の確保や企業の競争力向上につながります。
また、従業員が求めるニーズに応じた住宅を提供することで、社員満足度を高めることができ、結果として企業全体の生産性を向上させることが期待できます。
これらの情報を基に社宅制度を見直し、企業にとっても従業員にとっても魅力的な制度を構築していきましょう。