企業における福利厚生の一環として提供される「住宅手当」は、従業員の生活をサポートする重要な制度です。しかし、住宅手当の具体的な定義や、その相場、支給の有無については企業によって異なります。
本記事では、住宅手当の広義と狭義の違いや、企業がどのように住宅補助を行っているかについて解説し、さらに住宅手当を導入している企業の最新動向についても触れていきます。
目次
住宅手当とは?
住宅手当とは、企業が従業員の住宅に関する費用の一部を補助する制度です。しかし、その内容や支給方法は企業ごとに異なり、「住宅手当」という言葉が指す範囲も広がっています。ここでは、広義と狭義の住宅手当の違いについて詳しく説明します。
広義には住宅に関する様々な手当や補助のことを指す
広義での「住宅手当」は、単に家賃の補助だけではなく、住宅に関連するさまざまな手当や補助を含みます。ここでは、住宅に関する手当や補助制度の具体的な内容について解説します。
社有社宅(社宅・社員寮)
企業が所有する住宅を従業員に貸し出す形式です。社宅や社員寮は家賃が通常の市場価格よりも安く設定されることが多く、従業員にとっては経済的負担が軽減されます。特に地方に勤務する従業員向けに提供されるケースが多く見られます。
借り上げ社宅
会社が外部の不動産を借り、従業員に提供する制度です。この制度を利用することで、企業は自社で物件を保有・管理する負担を軽減しつつ、従業員に安定した住居を提供できます。特に都市部で社有社宅の維持が困難な場合や、転勤が多い企業で利用されることが一般的です。
家賃補助
従業員が自ら借りた賃貸住宅に対して、企業が家賃の一部を補助する制度です。家賃補助は住宅手当の中でも特に一般的で、借り上げ社宅と同じく、従業員がライフスタイルに合った住居を自由に選べる点で人気があり、特に転勤や引越しの際に柔軟に対応できます。
住宅ローン補助
住宅を購入する際のローンに対して補助を行う制度です。従業員が持ち家を購入する場合に限られ、家賃補助とは異なる形での支援となります。
引越し手当
転勤や新規採用時に発生する引越し費用を補助する制度です。特に大企業や全国に支店を持つ企業では、転勤者に対して引越し費用の一部、または全額を補助することが一般的です。
狭義には住宅手当=家賃補助と扱われる場合も多い
一方で、狭義の「住宅手当」としては、主に「家賃補助」のことを指す場合が多いです。
家賃補助は、従業員が自ら賃貸物件を契約する際に、企業がその家賃の一部を負担するものです。家賃補助は、福利厚生の一環として非常に人気が高く、企業にとっては従業員の生活を安定させるための重要な制度となっています。
住宅手当(家賃補助)の相場
狭義の住宅手当(=家賃補助)の相場は、企業の規模や地域、そして従業員の役職や家族構成などによって異なります。詳しい内容については、以下の記事を参照してください。
関連記事:家賃補助の相場はいくら?企業が知っておくべきポイントと導入のメリット
住宅手当を導入している企業の割合
住宅手当を導入している企業の割合は業種や規模によって異なりますが、全体として多くの企業で何らかの形で住宅補助を提供しています。
独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表した調査によれば、調査対象全体の44.0%が「家賃補助や住宅手当の支給」を行っていることがわかります。(*)
*参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構|企業における福利厚生施策の実態に関する調査
住宅手当は、特に中小企業や都市部の企業でよく見られます。従業員の生活を支えるための福利厚生として住宅手当を提供することで、従業員の満足度や定着率の向上が期待されています。大企業では福利厚生の一環として多くの企業で導入されており、中小企業においても競争力を高めるために取り入れる企業が増加しています。
住宅手当(家賃補助)を支給する企業は減少傾向
多くの企業が導入する住宅手当(家賃補助)ですが、近年は支給を縮小または廃止する企業も増えてきています。ここでは、住宅手当が減少傾向にある理由を探ります。
企業のコスト削減努力
企業は常にコスト削減を目指しており、特に経済が不安定な時期にはその傾向が顕著になります。住宅補助は企業の負担となるため、支給を縮小または廃止するケースが増えています。
テレワークの普及
新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの企業がテレワークを導入しました。これにより、従業員の勤務地が固定されない状況が生まれ、従来の住宅補助の必要性が薄れています。従業員が自宅で勤務する場合、通勤費用や住宅手当の重要性が低下し、企業は従来の補助の見直しを迫られました。
従業員のライフスタイルの多様化
現代の従業員は、多様なライフスタイルを持つようになりました。独身者や家庭を持つ従業員、リモートワーカーなど、住居に対するニーズは一様ではありません。このため、企業が全ての従業員に対して同一の住宅補助を提供することが難しくなっています。結果として、企業は個々のニーズに合わせた福利厚生を提供する方向にシフトし、従来の住宅補助を廃止するケースも増えています。
地域差や業種による影響
住宅補助の支給状況は、地域差や業種によっても異なります。都市部では住宅費が高騰しているため、企業が住宅補助を支給し続けることが難しくなる場合があります。一方で、地方企業では住宅補助が一般的に見られることもあります。業種によっても、労働市場の状況や競争環境が影響を与え、住宅補助の必要性が異なるため、企業は戦略的に福利厚生を見直すことが求められています。
代替策としての社宅・社員寮の導入
住宅手当(家賃補助)の支給が減少する一方で、社宅や社員寮の導入を進める企業も少なくありません。
社宅や社員寮は、従業員に安価で住居を提供する手段として、多くの企業に選ばれています。企業が直接物件を所有または借り上げることで、家賃の相場を抑えることが可能です。社宅を利用することで、従業員同士のコミュニケーションやチームワークの向上にも寄与することにも期待できます。
また、社宅や社員寮を導入する場合、一定の条件を満たせば税制面での明確なメリットを享受できます。企業が社宅を提供する場合、福利厚生費として経費計上が可能であり、法人税の軽減につながります。また従業員にとっても、住宅補助(家賃補助)は上乗せ給与として課税対象になることが多いことに対し、社宅の場合は税負担を軽減できる点で大きな利点です。
両者の違いについては以下の資料で詳しく解説しています。
ホワイトペーパー:家賃補助 vs 社宅・社員寮~自社に最適な住宅補助制度を選択するには~
まとめ
企業が提供する福利厚生の一環として、従業員の生活を支える住宅手当は非常に重要な制度です。しかし、最近ではその支給形態が変化しつつあり、住宅手当(家賃補助)の代わりに社宅や社員寮の提供が増加している現状もあります。企業が従業員の生活を支援するためにどのような選択肢を取るべきか、時代の流れに合わせた検討が必要です。