健康経営は、従業員の健康を経営戦略に組み込むことで企業の生産性や業績を向上させるための重要なアプローチとして、近年ますます注目が高まっています。
この取り組みを促進するために、経済産業省と日本健康会議が主体となって2016年に創設された「健康経営優良法人認定制度」という制度が存在します。
本記事では、健康経営優良法人認定制度の概要や取得を目指すメリット、認定基準、申請フローまで、詳しく解説します。
目次
そもそも健康経営とは?
健康経営とは、企業が従業員の健康を重要な経営資源と位置づけ、その維持・向上に向けた取り組みを行うことです。この活動により、従業員の生産性を向上させ、会社の持続的な成長を支えるとともに、企業イメージの向上にも期待することができます。
健康経営の定義やメリットについては以下の記事で詳しく説明していますので、ぜひ合わせてご覧ください。
関連記事:健康経営を導入するメリットとは?企業と従業員にとっての価値を徹底解説!
健康経営優良法人認定制度の概要
健康経営優良法人認定制度は、国が企業の健康経営に関する取り組みを促進するために、2016年に経済産業省と日本健康会議が主体となって創設された評価制度です。
企業が健康経営を実施する上での指針を示し、その実績に基づいて優れた企業が表彰されます。優良な健康経営を実践する企業を「見える化」することで、企業が社会的な評価を受けることができる環境を整備することを目的としています。
「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」
当制度は、大規模の企業等を対象とした「大規模法人部門」と、中小規模の企業等を対象とした「中小規模法人部門」の2つの部門にわかれており、それぞれで認定基準が異なります。
8回目となった2024年の認定では、大規模法人部門に2,988法人が、中小規模法人部門に16,733法人が認定されています。(令和6年3月11日現在)
「ホワイト500」と「ブライト500」
それぞれの部門のうち、特に優れた取り組みを行う上位500社に対して、大規模法人部門では「ホワイト500」、中小規模法人部門では「ブライト500」という特別な称号が与えられます。
さらに2025年度からは、中小規模法人のうち上位501から1500位を「ネクストブライト1000」として新設し、認定することが決まりました。
健康経営銘柄
ホワイト500に選定された大企業のうち、特に優良な取り組みを行う「上場企業」は「健康経営銘柄」として選定されます。1業種につき1社の選定が原則となっており、2024年には27業種から53社が選定されました。
参考:「健康経営銘柄2024」に53社を選定しました!|経済産業省
健康経営優良法人の取得を目指すメリット
健康経営優良法人の取得を目指すことに、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?みていきましょう。
優秀な人材の確保・定着に繋がる
昨今の求職者は、従業員の健康や福利厚生が充実している企業を選ぶ傾向が強まっています。認定を受けた企業は、従業員にとって働きやすい職場環境が整っていることを客観的に示すことができるため、採用活動においても有利に働きます。
認定企業しか利用できない健康経営優良法人のロゴマークを企業のHPや採用サイトに掲載することが可能で、就活生に対して大いにアピールすることができるでしょう。またハローワーク(公共職業安定所)の求人票にも、健康経営優良法人に認定されている旨の記載が可能です。
また、健康経営を推進することで、社員の生産性やモチベーションが向上し、企業のパフォーマンスも向上します。従業員が心身ともに健康であれば、職場の雰囲気も良くなり、企業文化が向上します。こうしたポジティブな環境は、優秀な人材の採用だけでなく、定着にも寄与するため、長期的な人材戦略においても大きな利点をもたらしてくれるのです。
国や公共団体・公法人等による優遇措置を受けられる
各自治体や金融機関等は、健康経営優良法人の認定を受けた企業に向けて、様々な優遇措置を設けています。例えば補助金の申請時に加点等の優遇措置が受けられたり、融資の際に優遇利率が適用されたりします。
参考:国の取り組み|「ACTION!健康経営」ポータルサイト
また認定の有無にかかわらず、健康経営を推進するその過程においては、企業が活用できる様々な助成金制度が存在します。健康経営に役立つ助成金制度については、下記の記事で詳しくご紹介しています。
関連記事:健康経営に役立つ助成金ガイド:企業が利用できる6つの助成金と申請のポイント
投資家からの評価が高まる
健康経営優良法人認定を受けることで、企業は投資家からの評価を高めることができます。
認定を受けた企業は、従業員の健康や福祉に積極的に取り組む姿勢を示し、CSR活動の一環として社会的責任を果たしていることを社内外にアピールできます。また、健康経営は欠勤率や離職率の低下を通じて業務の安定性を向上させリスク管理にも貢献するため、企業の長期的な成長性や持続可能性が評価され、投資家にとって魅力的な企業となるのです。
健康経営優良法人の認定基準と申請フロー
ここからは、健康経営優良法人の認定基準から申請フローまでを具体的にみていきます。
申請区分
申請区分は従業員数や資本金、および業種によって区分けされており、該当する内容に応じて、大規模法人部門か中小規模法人部門のいずれかに申請することになります。
「会社法上の会社等」または「士業法人」の場合
出典:健康経営優良法人申請区分|「ACTION!健康経営」ポータルサイト
「会社法上の会社等」または「士業法人」で、両部門の要件に該当する場合は、いずれかを選択して申請を行うことが可能です。例えば小売業で従業員数は51人以上だが資本金が5,000万円以下の場合、どちらに申請しても問題ありません。ただし両部門に申請することはできないので注意が必要です。
「会社法上の会社等」または「士業法人」以外の場合
医療法人や社会福祉法人等、上記の区分に該当しない法人は、法人分類ごとに従業員数で判断されます。
出典:健康経営優良法人申請区分|「ACTION!健康経営」ポータルサイト
認定基準
- 経営理念
- 組織体制
- 制度・施策実行
- 評価・改善
- 法令遵守・リスクマネジメント
認定基準は上記5つの大項目にわかれ、さらに中項目、小項目と細分化されています。
特に「3.制度・施策実行」における必須項目数が申請区分によって異なり、上位の認定を得るためにはより厳しい認定基準を満たさないといけない仕組みになっています。
出典:健康経営優良法人2025(大規模法人部門)認定要件|「ACTION!健康経営」ポータルサイト 日本経済新聞
画像出典:健康経営優良法人2025(中小規模法人部門)認定要件|「ACTION!健康経営」ポータルサイト 日本経済新聞社
申請フロー
健康経営優良法人の認定を受けるためには、毎年の申請が必要になります。
令和5年度からは日本経済新聞社が経済産業省から委託を受け、「ACTION!健康経営」ポータルサイトについて申請から認定までの手続きが行われています。同サイトの情報を参考に、詳しい申請フローについてみてみましょう。
出典:申請から認定までの流れ|「ACTION!健康経営」ポータルサイト 日本経済新聞
大規模法人部門の場合は、「健康経営度調査票」という、企業の健康経営に関する取り組みとその成果を把握するための調査に回答したうえで申請を行います。回答内容について日本健康会議の認定委員会において審議が行われたのち、認定されます。
中小規模法人部門の場合は、まずは加入する健康保険組合において「健康宣言事業」に参加する必要があります。健康宣言事業とは、健康宣言をおこなう企業の健康づくりを支援し加入者の健康を増進することを目的とした、各保険者が実施する制度です。保険者によっては健康宣言事業への申し込みだけでは申請が認められない場合や、健康宣言事業の名称や制度設計内容が異なるケースがあるため、申請前に各団体に確認しておくことをおすすめします。その後に、健康経営優良法人認定申請書を作成し、認定の審査を受けます。
申請スケジュール
「健康経営銘柄2025」及び「健康経営優良法人2025」の申請スケジュールは下記の通りです。
- 令和6年度健康経営度調査回答期間
令和6年8月19日(月曜日)から令和6年10月11日(金曜日)17時
- 健康経営優良法人2025(中小規模法人部門)認定申請期間
令和6年8月19日(月曜日)から令和6年10月18日(金曜日)17時
- 選定・認定時期
令和7年3月頃(予定)
参考:「健康経営銘柄2025」及び「健康経営優良法人2025」の申請受付を開始しました|経済産業省
健康経営優良法人の申請における注意点
最後に、健康経営優良法人の申請における注意点について解説します。
認定申請料がかかる
健康経営優良法人に認定された場合、認定申請料が必要になります。
大規模法人部門の場合:80,000円(税込88,000円)/件
※グループ会社との合算で申請する場合、同時認定の対象となる合算1法人あたり15,000円(税込16,500円)を加算
※健康経営度調査への回答のみを行う場合は不要
中小規模法人部門の場合:15,000円(税込16,500円)/件
認定を維持するためには毎年申請を行わなければならない
健康経営優良法人の有効期限は、認定発表が例年3月に行われ、その翌年の3月31日までの約1年間となっています。そのため、認定を維持するためには、毎年更新のために申請を行う必要があります。
健康経営を導入するのは簡単ではない
ここまでで健康経営優良法人について、認定基準や申請フローといった概要はご理解いただけたと思いますが、実際に認定を受けるためには、どのように健康経営をとらえ、実践していくかが肝となります。
以下の記事では、健康経営の導入において直面する課題や、その推進に役立つ具体的な取り組みについてご紹介しています。ぜひ合わせてご覧ください。
関連記事:健康経営導入における課題と、成功に向けた具体的アプローチ
関連記事:健康経営を支える福利厚生施策とは?従業員の健康を守る具体策をご紹介!
まとめ
健康経営が「流行」として広がる中、企業の間で健康経営優良法人認定制度に関する情報が増え、認定の重要性が認識されるようになっています。これにより、多くの企業が認定取得に向けた取り組みを開始し、競争が生まれています。今こそ、健康経営の重要性を認識し、認定制度への参加を検討する時ではないでしょうか。
従業員の健康を大切にすることで、より良い職場環境を築き、企業の成長を実現しましょう。
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